2016年1月3日日曜日

ガイア-母なる地球-/ EARTH デイヴィッド・ブリン

ハヤカワ文庫

 オゾン層破壊によって皮膚癌の多発、生態系破壊に直面している時代。生態系学者で”現代ガイア・パラダイムの母”と呼ばれているジェン・ウォリングは新ガイア理論でノーベル賞を受賞。この理論によって、世界中に100近くも閉鎖生態系施設〈方舟〉が作られ、絶滅に瀕した野生種が集められている。

 一方、1990年代後半にアドラーとハートが統一理論を完成。2020年には実験室内に特異点(マイクロ・ブラックホール)を作ることが可能となった。

 ジェンの孫で若き天才物理学者アレックス・ラスティグは、特異点を使った発電所作りに荷担するが、ジャ-ナリスト、ペドロ・マネラに扇動された反対派が発電所を襲撃し、送電線が切断され、磁場ケージの中の特異点が地球内部に落ちてしまった。

 アレックスは、大企業タンゴパル社の会長ジョージ・ハットンらの援助を得て、超伝導重力波アンテナを建設し、アレックスの特異点〈アルファ〉が核内で蒸発しつつある一方、別の誰かが作った成長しつつある特異点〈ベータ〉(コズミック・ノット)を発見。この重力波走査が特異点と共振して地震を引き起こすことも知る。

 この重力波走査は、テザー型宇宙ステーション〈レーガン・ステーション〉(通称、エレウォン)に秘密裏に持ち込まれていた特異点とも共振する。最後のコロンビア級スペースシャトル〈プレアデス〉の女性船長テレサ・ティカナ大尉は、〈エレウォン〉の崩壊に遭遇し、そこで研究に従事していた夫を失う。

 アレックスらはコヒーレント重力波共振装置(ゲーザー・ビーム)を地球上の正四面体の頂点、チリのイースター島ラバ・ヌイ、グリーンランド、ニューギニア、南部アフリカに設置し、特異点〈ベータ〉を地球からはじき出すプロジェクトを開始する・・・。

 モホロビチッチ不連続面、マントル内のホット・プルームとコールド・プルーム、磁場逆転などの話題が登場する。マントル・核境界の超高温超高圧域で超伝導現象が生じる設定になっている。

 太陽エネルギー崇拝の〈ラーの使徒〉、環境技術と産児制限を推進する穏便派の〈ガイア教会〉、開発を全面否定する過激派の〈ネオ・ガイア主義者〉、遺伝子操作によって人間の捕食者を作りだそうとする〈シュクリー主義者〉、規制に反対する青年結社〈開拓者〉、野生動物救済の〈方舟〉などざまざまな宗派、思想グループも登場する。

本作品は、電子捕獲型検出器を発明したジェームズ・ラブロックと共生進化論を提唱したリン・マーギュリスによる「ガイア仮説」をさまざまな切り口で捉えている。中でも『「競争」と「共生」は表裏一体』という関係を、地球システムや生態系のみならず、脳の神経細胞や社会・経済システム、さらには、ネットワークにまで見出すところが興味深い。

詳細
【核】
・アレックス・ラスティング博士:物理学者、ジェンの孫。
・ジューン・モーガン:地質学者、テレサの亡き夫ジェースンの元愛人。
【中間圏】
・スタン・ゴールドマン:理論物理学者。ゲーザーのグリーンランド担当
・カブル巫女
【マントル】
・ジョージ・ハットン:タンゴパル社の会長。億万長者。アレックスの支援者。ゲーザーのニューギニア担当。
・サパク・タクロー:ジョージの友人、パプア人
【外気圏】
・テレサ(リップ)・ティカナ大尉:スペースシャトル〈プレアデス〉の機長。レーガン・ステーションの事故で夫ジェイスンを失う。
・グレン・スピヴィー大佐:
・ペドロ・マネラ:ニュース・レポータ
【電離圏】
・マーク・ランドール:副パイロット。のちにモデルⅢタイプの小型シャトル〈イントレピッド〉機長に昇進。
【岩石圏】
・ローガン・エング:治水事業専門のフィールドエンジニアとして長石発電所での不可解な事故に関わる。デイジーの元夫
【水圏】
・クレア・エング:ローガンとデイジーの娘
・トニー:クレアの幼馴染、17歳
・デイジー・マクレノン:ローガンの元妻、ネットワークの悪魔、ジェンの不倶戴天の敵
【地殻】
・レイミー:青年結社〈開拓者〉のメンバー
・ローランド・センテリアス:同じくメンバー。のちに平和維持軍の兵卒
・クラット:同じくメンバー。のちに海上自治区の漁船〈コンゴ〉の船員、潜水士。
・ジョゼフ・モイヤーズ老人
【共生圏】
・ジェニファー(ジェン)・ウォリング教授:新ガイア理論でノーベル賞受賞の生物学者、アレックスの祖母
【生物圏】
・ネルスン・グレイスン:南部アフリカの〈クエネジの方舟〉の生態系管理者。若い母ヒヒと心が通じ合う。
【人智圏】
・ジミー・スワレス
・カネダ博士

(横浜研開架)

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