2016年1月3日日曜日

鯨の王 藤崎慎吾

文芸春秋 2007年

 「白鯨」のオマージュ/パロディー的な軽い海洋冒険小説とのこと。マリアナ諸島海域で水深650フィートを航行中の米攻撃型原潜<ツーソン>で乗組員が次々と原因不明の出血で倒れていく。

 一方、海洋研究開発機構の「しんかい6500」は伊豆・小笠原海溝の西方の蛇紋岩海山である鳴島海山(頂上の水深4000m)で発見されたクジラの骨について鯨類学者による調査を行っていた。マッコウクジラの仲間と思われるが体長が通常のマッコウクジラの2倍の40mもあることが明らかに。ところが採取し研究室に保管していたサンプルが何者かに盗まれる・・・。

 近未来の原潜と対等以上に闘える未発見の巨大海洋生物、それを限りなくリアルに描き、ひょっとしたら本当にいるかもと思わせ、かつ、これまで発見されていない理由も成り立つようにするには、こう生物になるのではないだろうか。また一方の近未来原潜についてもなかなかよく考えられていて、まさか藤崎氏が潜水艦バトルも描けるとは思いもよりませんでした。

 一方、潜水船や深海熱水噴出域の描写といえば藤崎氏の得意分野であり、これまで「深海のパイロット」と「ハイドゥナン」で描いてきたが、実は本人は潜水船の乗船経験がなく、すべて母船上の取材で書いてきたという。

 本作品ではうれしいことに、藤崎さんが「ニュートン」との共同企画として、読者から募ったアイデアによる深海研究室というテーマが「しんかい6500」乗船課題として採択され、藤崎さんの3年ごしの悲願が第1001回潜航で実現したもの。
=>深海研究室 水深1500メートルの世界で行った読者アイデアの実験(ニュートンプレス)
=>しんかい6500潜航記録(藤崎慎吾)

 「鯨の王」の連載中は間に合わなかったようですが、単行本の初校ゲラ戻しにぎりぎり間に合ったそうです。藤崎さん本人による執筆ウラ話/6500乗船記がこちらで読めます。
=>ダイマッコウの深海へ!(藤崎慎吾)

 この1001回潜航は、実はNHKのサイエンスZEROであたかもNHKカメラマンが乗船したかのように放送されており、実は藤崎さん本人がちらりと写っています。NHKカメラマンの潜航が不運にも天候不良でキャンセルされたためこうなったもの。

海底熱水鉱床探査基地<ロレーヌクロス>:マリアナ諸島アナタハン島の南方約50kmにあるサスケハナ海山の山頂、水深450m、ホワートスモーカー噴出場所のそばに設置。HYREDEC(Hydro-thermal Resource Development Consosium? )所属。20人(男12人、女8人)が居住。3ヶ月交代制。当直なしの9:00~17:00勤務。2ヶ月に一度、アナタハン島から支援船<ポトマック>(半没水双胴船)が水中エレベータで補給する。

南から北方向に
- 展望室(球形。直径30cmの丸窓からホワイトスモーカーが展望できる)
- メインチャンバー(中枢で仕事場。直径3m、長さ8m)
- サウスドッキングチャンバー:水中エレベータ又は小型潜水船<ナンティコーク>がドッキング/東側:ウエストチャンバー(男性居住区)/西側:イーストチャンバー(女性居住区)/下方:地下チャンバー(避難所。普段は倉庫、仕事場の一部)
- サプライチャンバー(食堂、厨房、倉庫)
- ノースドッキングチャンバー:大型潜水船<ポコモーク>がドッキング/西側:リアクターチャンバー(原子炉)/東側:マシンチャンバー(淡水化、酸素製造プラントほか)
- 減圧チャンバー(今は居住区)<br />- ロックアウトチャンバー(今は基地の責任者の個室)

小型潜水船<ドルフィンシャーク>:潜航深度3000m。米バイオメッド社所有。


=>書評:Buy Another Day書斎けろこ堂日乗room 416痛快娯楽男の日常

(横浜研開架)


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