2015年12月2日水曜日

流跡 朝吹真理子

新潮社 2010/10

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 本を読む延々とした作業から始まり、もののけが跋扈する不思議な世界の、夜の渡し船を生業とする男の物語となり、小説を書く延々としたワープロ作業で終わる。
 海上に迫りだすおおきな神社。切妻屋根の社殿、空を圧するように伸びる殷い列柱が並ぶ廻廊。海面から伸し上がったような高舞台、くろい大鳥居がある。(周りには焼牡蠣屋台が建ちならび、「もみじをかたどった饅頭」が売られているから、宮島の嚴島神社をモチーフとしているのであろう。)
 男はその神社の高舞台から逃げ出して小舟に乗り込む。いつの間にか夜舟の舟頭になって、ヒトやものや怪異のたぐいを運ぶ。時代は昔のように見えるがUSBメモリも登場する現代らしい。妻や同僚を殺した過去を持つのかと思えば、妻と発話遅れが気になる子供を持つ平凡な男であるらしい。
 降りるべき市に着くと雨後の水たまりにのみに一本の細長く、白い焼却炉の煙突が映るが、それは実存しない。(どうやらかつてあった精錬所の煙突なのかもしれない。)
 ある日、その煙突が実存する市に降りる。町の方々から大金魚があらわれる。和金、琉金、獅子頭、出目、らんちゅう、しろがちあかがちの桜錦、緋鯉があらわれてくる。クロモ、ミズアフヒ、ミズワラビ、ミソハギ、ミズネコノオ、ヌナウ、コウホネ、ハチス、珪藻が生えてくる。
 なぜか女になって銅の精練所の廃墟が残された島を歩いている。この島の最北端に、竜宮という海底の地殻変動で生じた大きな孔があり、そこに引き込まれるが、気が付けばまた元の波止場に立っている・・・。

(横浜研開架)

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