ハヤカワ文庫NV,2008 姓のaはウムラウト
先月ドイツを訪問した際に、ブレーメン大学でお会いしたBohrmann教授から日本人(メタンハイドレートの松本良教授、AUVの浦環教授)も登場して面白いからと1冊のペーパーバック(881ページ!)をいただきました。今日、やっと読み終わり、西村さんの要請もあり、ごく簡単に紹介します。
邦訳はまだなさそうです。ドイツではベストセラーで国際的に200万部以上売れたと表紙にあります。
読後の感想は、まずたいへんに面白く読み始めたら止められない。副題が「深部(海)の小説」で、たいへんにスケールの大きな,海洋地球生物SFです。
科学的にいいかげんなところがなく(現在の知見をフルに動員しているようである)、Bohrmannほかも実名で登場し活躍する内容です。
どういう話かは、言えません。言えませんが、海洋の生物、環境が異常を来し始めて、人間社会に影響をもたらし始めます。さまざまな性格の登場人物が、そのわけを探って行くうちに、とてつもない問題であることがわかってきます。問題を認識対処するのに、科学者がどういうものか非常にわかっている描写になっています。読むうちに、気候変動、海洋循環、プレートテクトニクス,極限環境生物,生物多様性、環境問題などがすべて関係してきます。そしてそれ以上の話です。言ってしまうと、私が経験した、読み進むうちの興奮が損なわれると思うのでここまでにします。(by K.S.さん)
この作品、”『海洋科学基礎講座』全6巻をハリウッドのパニック映画にした”といえばよいだろうか。普通の長編小説の数冊分にも匹敵する比類なき海洋SF大作である。ジェームズ・ポーリックの『腐海』という海洋SFの傑作があるが、有毒渦鞭毛藻類というプランクトンが人類を襲う。本作品でもこれが猛威をふるうほか、メタンハイドレートを食べるアイス・ワーム、旺盛な繁殖力のカワホトトギスガイ、猛毒のヒョウモンダコやハブクラゲ、眼が退化したユノハナガニなど少々マニアックな生物が人類を脅かす。
さらに海洋大循環、プレートテクトニクス、大陸棚斜面や海洋島の崩壊、化学合成生態系など注目されている地球科学のウンチクが語られ、また、独調査船〈ゾンネ〉や砕氷船〈ポーラーシュテルン〉、東大浦研究室の自律型水中ロボット、各種の地球観測衛星、一人乗り水中滑空潜水艇、大気圧潜水服など実在の海洋メカもひととおり登場する。
てっきり海洋オタクの一発もの作品かと思えばそうではない。元ミュージシャン志望、広告代理業も経験したという文系の人気作家であって、しかしその熱心さと筆力はタダモノではない。本書より先に翻訳されたノンフィクション『知られざる宇宙-海の中のタイムトラベル』では、ビッグバン以降、地球46億年の歴史から、生命の起源、海洋生態系、さらには浮遊式人工島ほか海洋工学分野を網羅する第一級の啓蒙書である。しかも図や表をいっさい使わず、巧みな比喩で一気に読ませてしまう。
登場人物は、映画俳優似で女性にもてもての中年ノルウェー人生物学者と、イヌイット出身で恋愛に臆病な若い鯨類生態学者という対称的な2人を主人公とし、恋愛が絡み、敵キャラの人物像にも厚みがあり、サービス満点のエンターテインメントである。著者は映画とワインも大好きなようで、そこかしこに映画や俳優への言及があるのも楽しい。(SFマガジン掲載)