2016年5月2日月曜日

深海のYrr :THE SWARM フランク・シェッツィング

ハヤカワ文庫NV,2008 姓のaはウムラウト
 
先月ドイツを訪問した際に、ブレーメン大学でお会いしたBohrmann教授から日本人(メタンハイドレートの松本良教授、AUVの浦環教授)も登場して面白いからと1冊のペーパーバック(881ページ!)をいただきました。今日、やっと読み終わり、西村さんの要請もあり、ごく簡単に紹介します。

 邦訳はまだなさそうです。ドイツではベストセラーで国際的に200万部以上売れたと表紙にあります。
 読後の感想は、まずたいへんに面白く読み始めたら止められない。副題が「深部(海)の小説」で、たいへんにスケールの大きな,海洋地球生物SFです。
 科学的にいいかげんなところがなく(現在の知見をフルに動員しているようである)、Bohrmannほかも実名で登場し活躍する内容です。

 どういう話かは、言えません。言えませんが、海洋の生物、環境が異常を来し始めて、人間社会に影響をもたらし始めます。さまざまな性格の登場人物が、そのわけを探って行くうちに、とてつもない問題であることがわかってきます。問題を認識対処するのに、科学者がどういうものか非常にわかっている描写になっています。読むうちに、気候変動、海洋循環、プレートテクトニクス,極限環境生物,生物多様性、環境問題などがすべて関係してきます。そしてそれ以上の話です。言ってしまうと、私が経験した、読み進むうちの興奮が損なわれると思うのでここまでにします。(by K.S.さん)

 この作品、”『海洋科学基礎講座』全6巻をハリウッドのパニック映画にした”といえばよいだろうか。普通の長編小説の数冊分にも匹敵する比類なき海洋SF大作である。ジェームズ・ポーリックの『腐海』という海洋SFの傑作があるが、有毒渦鞭毛藻類というプランクトンが人類を襲う。本作品でもこれが猛威をふるうほか、メタンハイドレートを食べるアイス・ワーム、旺盛な繁殖力のカワホトトギスガイ、猛毒のヒョウモンダコやハブクラゲ、眼が退化したユノハナガニなど少々マニアックな生物が人類を脅かす。

 さらに海洋大循環、プレートテクトニクス、大陸棚斜面や海洋島の崩壊、化学合成生態系など注目されている地球科学のウンチクが語られ、また、独調査船〈ゾンネ〉や砕氷船〈ポーラーシュテルン〉、東大浦研究室の自律型水中ロボット、各種の地球観測衛星、一人乗り水中滑空潜水艇、大気圧潜水服など実在の海洋メカもひととおり登場する。

 てっきり海洋オタクの一発もの作品かと思えばそうではない。元ミュージシャン志望、広告代理業も経験したという文系の人気作家であって、しかしその熱心さと筆力はタダモノではない。本書より先に翻訳されたノンフィクション『知られざる宇宙-海の中のタイムトラベル』では、ビッグバン以降、地球46億年の歴史から、生命の起源、海洋生態系、さらには浮遊式人工島ほか海洋工学分野を網羅する第一級の啓蒙書である。しかも図や表をいっさい使わず、巧みな比喩で一気に読ませてしまう。

 登場人物は、映画俳優似で女性にもてもての中年ノルウェー人生物学者と、イヌイット出身で恋愛に臆病な若い鯨類生態学者という対称的な2人を主人公とし、恋愛が絡み、敵キャラの人物像にも厚みがあり、サービス満点のエンターテインメントである。著者は映画とワインも大好きなようで、そこかしこに映画や俳優への言及があるのも楽しい。(SFマガジン掲載)

詳細

・Molluscs/貝類,Zebra Mussel/カワホトトギスガイ/ゼブラ貝(イガイの一種)の新種ジエット貝
・ヘジオチェカ・メタニコラHesiocaeca methanicola/ 通称コオリミミズice worm/ methane-eater(Wiki), a polychaete/環形動物多毛類/bristle Worm/ゴカイ類(英Wiki,日Wiki), members of the Annelida phylum環形動物門, segmented worms
・ティラン・ネレイス・レックスTyran-nereis rex(メタンを食べる)
・カツオノエボシPortuguese men-of-war(Wiki/危険な生物)
・カツオノカンムリBy-the-wind sailor(Wiki)/ヴェレッラ・ヴェレッラ
・有毒渦鞭毛藻類/Pfiesteria piscicida(英Wiki,日wiki,フィエステリア・ピスキキダ, 渦鞭毛藻/dinoflagellate,米ノースカロライナ州で発見された藻類の一種。淡水で赤潮を作り出す。魚類を直接食べる。人間にも空気感染する,BSL3)/ Pfiesteria bomicida/ Algae:『腐海』で登場。Chrysochromulina polylepis
・ハパロクレナ・マクロサHapalochlaena maculosa/Blue-ringed octopus/ヒョウモンダコ(ヒョウモンダコ,ヒョウモンダコ,小型だが唾液に猛毒のテトロドトキシンを含む)
・Box jellyfish/ Chironex fleckeri/キロネックス・フレッケリ/ネッタイアンドンクラゲ科の一種/ハブクラゲ(英Wiki,日Wiki,Chironex fleckeri,猛毒クラゲ,ネッタイアンドンクラゲ,キロネックス,立方クラゲ類の仲間,箱クラゲ中最大種。直径25cm程度,60本の触手の長さが4.5mに達する。秒速1.5メートルの速度で海中を泳ぎ,24個の眼を持ち,発達した視力で魚類を追い,捕食する。)
軍事イルカ:ジョン・リリー/ルネ・ギィ・ビュネル(仏動物音響学研究所の所長)/レイ・カーツワイル教授

登場人物

(ペルー ウアンチャコ)
・ホアン・ナルシソ・ウカニャン/Juan Narciso Ucanan:漁師28才。
(ノルウェー トロンヘイム)
・シグル・ヨハンソン/Dr. Sigur Johanson※:NTNU(ノルウェー工科大学,Norway's principal university for the science)の海洋生物学者。ノルウェー国営石油会社Statoil社の管理機構みたいなもののメンバー。56才。離婚歴あり。30才年下の心臓内科部門の研究助手と付き合っていた。その後,Tinaと友人関係。映画俳優のMaximilian Schell(Wiki)に似ている。高級ワイン好き
・ティナ・ルン/Tina Lund※:年齢?。Johansonの友人。white-blondeのストレートな長髪,長身でスリム。極めて活動的。料理はできない。Statoil社でどんどん昇進して探査・生産部門の副部長。SINTEF研究所(欧州最大の独立研究機関)Marintekに駐在。
・コーレ・スヴェルドルップ/Kare Sverdrup※:Tinaの新しいボーイフレンド,20代後半。魚料理レストラン〈フィスケフーセ〉のシェフ。
・ジャン=ジャック・アルバン/Jean-Jacques Alban:Thorvaldson号(独砕氷調査船ポーラーシュテルン号から借りた無人機Victor 6000搭載)の一等航海士。仏人
・ラーシュ・ヨーレンセン/Lars Jorensen:トゥールヴァルドソン号Thorvaldsonのヘリ等運航管理
・エディ/Eddie:Thorvaldson号の搭載DR 1002 Deep Roverのパイロット
・フィン・スカウゲン/Finn Skaugen※:Statoil社のManagement Board
・トゥール・ヴィステンダール/Thor Hvistendahl:Statoil研究センターの副部長
・クリフォード・ストーン/Clifford Stone※:Statoil社のプロジェクト・リーダー。Tinaの上司
・クヌート・オルセン/Dr. Knut Olsen:Johansonの友人の海洋生物学者。NTUTのフェロー研究者。Johansonとは対照的に家族を大事にしている。
(ドイツ キール)
・ゲーアハルト・ボアマン/Prof. Gerhard Bohrmann:実在。メタンハイドレートの専門家,GEOMAR Centre
・ハイコ・ザーリング/Dr. Heiko Sahling:実在。ベルリン大学の海洋生物学者
・エアヴィーン・ズース/Prof. Erwin Suess:実在。GEOMAR所長。地球化学。
・イヴォンヌ・ミルバッハ/Dr. Yvonne Mirbach:GEOMARの深海微生物専門の分子生物学者
・ルーカス・バウアー/Dr. Lukas Bauer※:プロファイルフロートを用いた海洋大循環の研究者。ジュノー号でグリーンランド沖を観測。
・カレン・ウィーヴァー/Karen Weaver:科学ジャーナリスト,Bauerの研究助手。10歳の時に両親がダイビング中に行方不明となる。PRオフィス〈ディープブルーシー〉設立。
・レイ・カーツワイル
(カナダ バンクーバー)
・レオン・アナワク/Dr. Leon Anawak:バンクーバー在住,31才。海棲哺乳類の生態学/知能の研究,イヌイットの血筋。アル中の父親の暴力を受け,故郷を離れて養父母に育てられる。
・スーザン・ストリンガー/Susan Stringer※:ホエールウォッチング・ツアー会社のOffice managerで大学生。
・ロディー・ウォーカー/Roddy Walker:証券ブローカー。Susanのボーイフレンド
・トム・シューメーカー/Tom Shoemaker:ホエールウォッチング・ツアー会社の経営者
・デイヴィー:ホエールウォッチング・ツアー会社の共同経営者
・ロッド・パーム/Dr. Rod Palm:海棲哺乳類にテレメトリを付けて研究。シャチの専門家。ストロベリー島にある海洋観測所に所属。2人の子供と暮らしている。白い髭,禿げた額。
・サマンサ・クロウ/Dr. Samantha(Sam) Crowe:50代終わり。SETIの研究家。Ms. Alien,ヘビースモーカー
・アリシア・デラウェア/Alicia (Licia) Delaware※:赤毛の女子学生,Anawakのガールフレンドになると思ったら・・・。
・ジャック・グレイウォルフ/Jack Greywolf※:本名Jack O'Bannon,環境運動家。自称インディアンだがインディアンではない。のちに米海軍で海棲哺乳類の訓練係をしていた過去が判明。
・クライヴ・ロバーツ/Clive Roberts:実在。Inglewood社のmanaging director
・ジョン・フォード/Dr. John Ford:実在。バンクーバー水族館海棲哺乳類研究プログラムのディレクター。Anawakの理解者
・スー・オリヴィエラ/Dr. Sue Oliviera※:同Nanaimo生物学研究所の所長。声がハスキー。分子生物学者。
・レイ・フェンウィック/Dr. Ray Fenwick:カナダ海洋科学研究所Canadian Institute of Ocean Science and Fisheries。解剖の専門家
・ダニー/Danny※:弓の名手
・ジョージ・フランク/George Frank:カナダ・インディアンの大首長
・イジトシアク・アケスク/Ijitsiaq Akesuk:レオンの叔父,妻がMary-Ann
・マヌメエ・アナワク:レオンの父
(米国 ショトー・ウィスラー)
・マレー・シャンカー/Dr. Murray Shankar※:SOSUSの主任音響技術者。NOAA。がっしりした内気なインディアン風,金縁メガネを掛けている。
・ジューディス・リー/Judith (Jude) Li※:General Commander,48歳。母親が中国人。自然科学の学位,政治と歴史のPhD。特技:ピアノ,チェロ,アイススケート。標準中国語,独語,仏語,伊語,スペイン語,日本語,韓国語が話せる。毎日エクササイズを欠かさない。VanderbiltからSuzie Wongとあだ名される。
・サロモン・ピーク/Major Salomon (Sal) Peak※:米海軍少佐。
・ジャック・ヴァンダービルト/Jack Vanderbilt※:CIAのChief,副部長。体重100キロ以上の汗っかき。
・ベルナール・ローシュ/Dr. Belnard Roche:微生物学者。フランス人。Pfiesteria bomicidaの発見者
・ミック・ルービン/Dr. Mick Rubin※:英マンチェスターから来た生物学者。Molluscsの専門家。Johansonは彼が苦手らしい。
(米海軍インディペンデンス号)
・クレイグ・C・ブキャナン/Craig C. Buchanan※:Independence号のスキッパー。白髪
・フロイド・アンダーソン/Floyd Anderson:Independence号のFirst Officer
・ルーサー・ロスコビッツ/Luther Roscovitz※:潜水部門のコマンダー,Deepflight
・ケイト・アン・ブラウニング/Kate Ann Browning※:主任技術者
・シド・アンジェリ:インディペンデンスの医療センター責任者。小柄なイタリア人。
(その他)
・スタンリー・フロスト/Dr. Stanley (Stan) Frost※:火山学者
・ヤン・ファン・マールテン/Jan van Maarten:De Beers社の技術者。セミサブ型リグ”Heerema号”(Rambo,大気圧潜水服エクソスーツ,AUVトラックハウンド搭載)
・松本 良/Prof. Ryo Matsumoto:実在。名前のみ登場。メタンハイドレートの専門家
・浦 環/Prof. Tamaki Ura:実在。名前のみ登場。AUV”URA”の開発者。
・グラハム・ホークス:実在。名前のみ登場。ホークス・オーシャン・テクノロジーズ社のディープフライト

映画等:スターウォーズ,ジョーズ,ランボー,アビス,コンタクト,ディープインパクト,未知との遭遇,タイタニック,月の輝く夜(ニコラス・ケイジ), ジャイアント(ジェームズ・ディーン),アルマゲドン,E.T.,エイリアン,インディペンデンス・デイ,原始家族フリントストーン,みつばちマーヤの冒険,ターミネーター,マイケル・ケイン,メグ・ライアン,カッコーの巣の上で,ジャック・ニコルソン

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