2015年12月9日水曜日

冬至草 石黒達昌

短編集、ハヤカワSFシリーズJコレクション 2006年

 このメーリングリストでも話題になったことがある「希望ホヤ」(初出2002)が収録されています。
 石黒氏は東大医学部卒、同附属病院の外科に勤務しながら執筆。現在もテキサス大学MDアンダーソン癌センターに助教授として勤務しているという。
http://sf-fantasy.com/magazine/interview/061001.shtml
 この短編集から生物科学がらみのもののみ紹介します。ちょっとネタバレ気味です。

「希望ホヤ」
http://chikyu-to-umi.com/cgi/diary/archives/546.html
「冬至草」
 放射性物質を濃縮する能力を持つ新種の植物「冬至草」と、それを発見・命名した在野の研究者の物語。
 冬至草は、発見者の死後に絶滅し、わずかに押し葉としてひとつの標本だけが残されていた。この押し葉をぐうぜん見つけた博物館員からの依頼により遺伝子解析が行われるが、既知の植物遺伝子をプライマーとするPCRでは遺伝子増幅せず、なんとヒトの遺伝子が検出される。
 その後フィルムの一部が感光するという事件がきっかけで、冬至草が高濃度のウランとその崩壊生成物で汚染されていることが判明。その発見の経緯を調べていくと・・・。

「デ・ムーア事件」
 火の玉幻覚に悩まされる女性患者が精神科の検査を受けるが脳波に異常は見られない。その患者は退院後に自殺し、解剖によって膵臓癌に冒されていたことが判明する。その半年後、別の火の玉幻覚に悩まされる男性患者が訪れるがやはり脳波には異常がなく、半年後に肝臓癌で死亡する。
 異常に気付いた精神科医がヒューストン中にアンケート調査を行ったところ、火の玉幻覚症状を持つ患者全員が半年以内に死亡しているという驚くべき事実が明らかになる。その患者の一人が自分から出血した血を絵の具に混ぜた絵から、人為的に合成された遺伝子と蛍光遺伝子をくっつけたものが発見される・・・・。

「アブサルティに関する詳伝」
 癌細胞の増殖メカニズムについて「リン酸酵素のドミノ(カスケード)理論」という斬新な発見をまだ20代の大学院学生の頃にサイエンスで発表したアブサルティは、その業績だけでノーベル賞に値するとまで評される。そのアブサルティがデータを捏造していたことが明るみに出る・・・。

 この短編集「冬至草」以外にも架空の生物の生態を描いた作品に以下のものがあるようです。
●「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,」(1994、福武書店)
ハネネズミの生態と絶滅の顛末を論文形式で
●「新化」(1997、ベネッセコーポレーション)
上記作品の続編
●「人喰い病」(2000、ハルキ文庫)
うち「水蛇」が架空の生物の生態をリアルに描いているらしい。

(横浜研開架)

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