2016年1月2日土曜日

老ヴォールの惑星 小川一水

SFマガジン2003.8)/短編集「老ヴォールの惑星」(ハヤカワ文庫 JA)

 恒星サラフォルンを70時間周期の楕円軌道で周回するホット・ジュピター、巨大ガス惑星サラーハ。その大気は時速1000kmを越える電離水素の季節風が吹き、核の氷が溶融圧縮された超臨界水の海が存在する。その大気と海の境界に珪素の殻と金属繊維の神経を持つ生物が誕生する。数億年の進化によって彼らは2本の鰭足を海に突き立て、風を呑むことでエネルギーを蓄え、あるいはプラズマジェットを放出して泳ぐ。

 やがて、老ヴォールのように無数の汎眼と水晶体を使って宇宙に自分たちの惑星と同様の天体が存在することを知る者も現れる。ある時、直径15kmの彗星核がサラーハに落下し、3万体の命が失われる。それを契機に天体観測が活発化し、やがては自分たちの知識を他の惑星に伝える方法を考える者が現れる。折しもサラーハの直径の約十分の一の天体が5万5千日後にサラーハに衝突することが明らかになる。彼らは・・・。

 「ギャルナフカの迷宮」:
 極めて複雑な迷路に投獄された囚人たち。手掛かりは一人一人に渡されたそれぞれ異なる地図。一人の地図には一人がぎりぎり生きていくだけの餌場と水飲み場しか描かれていない。生肉食いたちが徘徊するその迷宮で主人公は・・・。

 「幸せになる箱庭」:
 木星の大赤斑で異星被造物が発見される。採取機械たちが集めた集めた木星気体を外宇宙のある方向に光速を超えて射出するカタパルトである。木星の質量が削り取られて他の惑星の軌道が乱されることを防ぐため、このカタパルトで有人交渉船が送り出されるが・・・。

 「漂った男」:
 陸地のまったくない海洋惑星に不時着した男。体温に近い水温と栄養の豊富な海水のお陰で、生存にはまったく問題なし。しかし、GPS衛星もまだ配備されておらず、高次元通信ゆえに逆探知による位置出しも不可能のため、広大な海に漂う男を発見することはまず不可能。高次元通信によるコミュニケーションだけを頼りにただ一人孤独に漂流する男・・・。

(横浜研開架)

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