2016年5月1日日曜日

燃える氷 高任和夫

祥伝社2003年

 2011年、地球人口は80億人に達し、日本は慢性的な経済停滞に陥っていた。経済産業省資源エネルギー庁は、産学官のメタンハイドレート資源開発コンソーシアムを組織し、日本経済の復活を賭けてメタンハイドレート開発計画を押し進めていた。静岡県御前崎沖にメタンガス採取/ハイドレート製造プラント船(全長140m、幅25m、2万総トン、高さ80mのやぐら)を浮かべ、フェーズ2の最終年として海洋産出試験を開始。

 日本周辺に大量に存在する「燃える氷」、メタン・ハイドレート。燃焼時の二酸化炭素排出量が少ない利点を持つが、その商業採掘には、水深1000mからさらに海底下2~3百mの高圧・低温環境にあるハイドレートをどうやって効率よくガス化するか、また、それをどうやって効率よく輸送するかをいう問題を解決しなければならなかった。

 それを解決する2つの技術革新によって、メタンハイドレートは商業採掘に大きく動きだそうとするが・・・。
 最近、三井造船が開発に成功したハイドレート粉末及びペレット化技術がさっそく本作品に取り入れられている。

=>MH21研究コンソーシアム

 メタン・ハイドレートは、単位体積あたり約170倍の天然ガスを包蔵している。本ペレットは温度:約1~8℃、圧力:約20~50気圧で製造でき、マイナス数十度で安定化させて貯蔵できるもので、LNGのように-162℃の極低温で製造・貯蔵するのに比べ、設備費、運転費が少なくて済みむとのこと。

 本作品の主人公が翔文社「月刊ガイア」編集部に勤める編集記者との設定。まさにジェームズ・ラブロック/リン・マーグリスによる「ガイア仮説」をコンセプトとする硬派の雑誌となっている。

 本作品では、地球深部探査船「ちきゅう」が2005年に完成し、南海トラフでどんどん成果を上げ、東海地震に関する情報がきめ細かく出されるようになっているとの設定がうれしい。一方、エネルギー庁は悪役になっていて、立場が逆になって書かれたらと思うと怖いですねぇ。

 このほか、8000年前、ノルウェー沖ストレッガ地滑りでは5000立方kmの堆積物が800kmも移動したこと、なぜ氷期から間氷期にかけて急激に気温が上昇したのかという、研究者がみんな悩んでいる謎、それとメタンハイドレートとの関係、ポックマーク(海底のガスの抜け穴)、泥火山(フロリダ沖水深 3000mの直径10kmの巨大なすり鉢上の陥没地形、ノルウェー沖ハーコンモスビー泥火山など)、冷湧水、東海地震と富士山噴火などが登場する。

 これ以上書くとネタバレになるので、このへんで。

1冊部内留保

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