2016年1月2日土曜日

火星ダーク・バラード 上田早夕里

2003年11月25、角川春樹事務所、20008、ハルキ文庫

 第4回小松左京賞受賞。応募総数131作品の中から受賞。
 天蓋で覆った空間を地球化するパラ・テラフォーミングの行われている火星。標高2万1千mのパヴォニス山には軌道エレベータが建設されており、その山頂と裾野をぐるりと取り囲んで天蓋に覆われた観光都市イクエイターがあり、そこから少し南下した先にある迷路のような峡谷に天蓋都市ノクティス・ラビリンサス、そして火星最大の巨大天蓋都市ヴァレス・マリネリス(全長4000km、深さ7km、最大幅700km)がある。各都市は時速600kmのリニアモーターカーで結ばれている。

 火星治安管理局第2課第3班の捜査官、水島烈(地球歴で30才、地球生まれの移民)と神月璃奈(火星生まれ)は連続女性殺人犯ジョエル・タニを追いつめるが、リニアモーターカーで護送中に異常な状態が発生。神月璃奈は惨殺され、ジョエルは逃走し、無傷の水島烈はジョエルとの共犯を疑われる。そのリニアモーターカーには火星総合科学研究所のデザインド・ベイビーでプログレッシヴと呼ばれるアデリーン(ダークブロンドの髪、地球歴で15才)が同乗していた・・・。

 「ダーク・バラード」とは、火星で人気という架空の音楽ジャンル。ポップス系バラードのような感傷的で甘酸っぱさは皆無。クールでいて、どこか激しさや強靭さがあり、短くて美しいフレーズが繰り返され、変奏曲風に展開させながら淡々と歌いつないでいく直截な音楽という。

 当初の火星探査では生命が発見されず、急速な開発が進められることとなったが、その後、地下の永久凍土内に数種類の微生物が凍結状態で発見される(ユーフェミア、イグナティウス、エウセビオス、アグライヤと名付けられる。そしてアグライヤに共生する微生物はエレノアと名付けられる)。火星の地底湖には企業が観光客目当てに地球から持ち込んだ生物が棲息している。

 2008年に文庫本化されたが、水島の年齢が39歳に引き上げられ、結末も異なる別作品といってもいいぐらいの大幅な改稿版。

(横浜研開架)

0 件のコメント:

コメントを投稿