2016年4月30日土曜日

大暴風 ジョン・バーンズ

ハヤカワ文庫、上下巻

 2028年、シベリア連邦が北極海に抑制型弾道ミサイルを配置。その発射の兆候を検知した国連平和維持軍は、反中性子ベリリウム爆弾をアラスカ北部に打ち込むが、北極海のクラストレート化合物の層が崩壊、大量のメタンが大気中に放出されてしまう。

 これによって温暖化が急進し、海水温が台風の発達する27.5度Cを越える海域が拡大する。やがて太平洋中央部で人類史上最大のハリケーンが発生。中心部の風速220ノット近く、高さ140mの波が発生し、カロリン諸島とマーシャル諸島で数百人の犠牲者を出したのち北緯30度を越えても勢力は衰えることなく・・・。

 反物質燃料で動く潜水可能型ヨットが登場。ハインライン「獣の数字」に登場する連続体飛行機ゲイ・デシーバーにちなんだエピソードが登場。 温暖化によって台風被害が増えるか否かは最近のモデル研究での課題となっていて、台風による擾乱で海面水温が低下するなどの効果によって、どうやら、台風の数は減りそう。

ネタバレ
 2006年、人間の感覚をスカルプネット(頭網)で中継するXVが登場。2014年、火星有人探査が実現。2016年、60マイル上空で爆発した爆弾によって全米政府・金融機関の電子記録の1/3が消滅する<フラッシュ>(大閃光)が発生。その直後にアラスカ自由国が米国から独立。 NASAの自己増殖するレプリケータによる月面採掘実験が失敗し、米国の有人宇宙探査の縮小が始まる。2022年布告により全アフロビアン(黒人種)が欧州から追放される。NOAAが発表した地球環境警戒5カ年アセスメントがXVのせいで世界暴動を引き起し、900万人が死亡、NOAA長期予報課が閉鎖される。

 2028年、シベリア連邦がアラスカの所有権を主張し、北極海の6カ所に抑制型弾道ミサイルを配置。その発射が試みられるのを検知した国連平和維持軍は、国連宇宙局UNSOOの25機の宇宙機をスクラムジェットで打ち上げ、計100発以上のCRAM-圧縮放射反物質-爆弾(反中性子ベリリウム爆弾)をアラスカ北部ノーススロープ沖に打ち込んだ。

 これによって、北極海の海底に厚さ50フィート、幅65マイル、全長400マイル以上のクラストレート化合物の層が崩壊し、1730億トンものメタンが大気中に放出された。これは2028年の大気中メタンの約19倍、1992年時点の約37倍に及んだ。

 米国で唯一残った宇宙ステーション<コンスティチューション>のルーイ・タイナンは、海上に吹き出したメタンにレーザーで点火・燃焼させるが焼け石に水。温暖化が急進し、海水温が台風の発達する27.5度Cを越える海域が拡大する。太平洋中央部で人類史上最大のハリケーン<クレム100>が発生。目の直径が約8km、中心部の風速220ノット近く。高さ140mの波が発生し、ライン諸島キングマンリーフの北アメリカ軌道サービス社NAOSの大型衛星(モンスター)打ち上げ場が破壊された。カロリン諸島とマーシャル諸島で数百人の犠牲者、サイパン島、インドネシア、南鳥島を襲い、北緯30度を越えても勢力は衰えることなく東へと針路を変える。

 <クレム100>は巨大な噴出ジェットによって予測不可能な進路を取る。ミッドウェイ諸島、ハワイ諸島を襲い、死者は数百万人に及ぶ。風力12以上の暴風圏は直径3000km近くに及ぶ。最大風速は竜巻並み、音速の半分前後の風力46、146m/秒、330マイル/時。目の直径は140km。<クレム 100>のジェットはさらに1000km離れた海面に<クレム200>(クレメンタイン)を産み出す。<クレム200>はメキシコのテワンテペク地峡を抜けてメキシコ湾に入り、猛威をふるいながら子を産みだしていく。

 海面温度を下げるため、「クリーグの風船計画」:ハリケーンの被害のため唯一打ち上げ可能なシベリアのロケット発射場を用い、何千個もの強化ポリフィルムの風船を極軌道に投入する方法、そして、「巨大な白い艦隊」:カイパーベルトにある彗星2026RU(直径790マイル、太陽から56.23 天文単位)を地球のラグランジュ点に運び、そこから円盤状の氷(質量200万トン、幅1マイル)を次々と昼間側の大気中に投入して日射量を下げ、夜間側で温室効果とならないよう水素と酸素に分解する方法が計画された。

 <コンスティチューション>のルーイはテレプレゼンス(遠隔存在)によって月面のレプリケータを再稼働させる。ルーイの複製ともいえる"ワイズガイ" (生意気なやつら)たちは、月にある日本とフランスの基地を解体し、その資材で<コンスティチューション>を深惑星探査船<グッドラック>に改造する。さらに自己増殖型工業コンビナートが産み出す資材を電磁カタパルトで<グッドラック>に向けて射出する。<グッドラック>は月から伝送された数ギガワットの電力で物質を反物質に変換しヘリウム3-IIと反応させ光速に近いヘリウム3の噴流を推進力とする。さらに、月から射出される資材の流れを<グッドラック>の電磁ブレーキで減速させるたびに<グッドラック>は4Gの加速を受けて2026RUに向かう。

 シベリアのロケット発射場にまつわるスキャンダルによって第2次世界暴動が起こり、<クレム114>はバングラディシュを壊滅させ、2億5千万人が死亡。ルーイは2026RUへの到着を早めるため、<グッドラック>を自分の肉体が耐えられる以上に加速させることを決意。<クレム650>は日本、香港、マカオなどで5億人を死亡させる。<クレム100>の目は直径350km、最大風速250m/秒(マッハ0.7)。長く伸びたジェットはメキシコ湾内に<クレム900>を産み出し、それは暴風圏1600マイル、中心気圧530ミリバール、最大風速はついにマッハ1を突破。噴出ジェットは海水をも巻き上げ、周りにぶちまけ始めた・・・。

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