2016年5月1日日曜日

ナチュン 都留泰作

講談社、アフタヌーンKC 第6巻2010/3/23で完結。 初出2007.2.23, 『月刊アフタヌーン』2006年8月号~11月号連載分

 作者は元文化人類学者。物語の舞台(のモデル)は近来の池間島などの宮古諸島のようです。天才数学者とイルカという組み合わせ。〈人工鰓肺(さいはい)〉という水中呼吸装置が登場する。

第1巻
 天才的な数学者のデュラム教授は、2035年、42歳で交通事故により大脳の前頭葉の一部と言語野のある左半球の大部分を失い、その人間離れした論理抽象能力を発揮できなくなってしまった。
 数学界を引退してイルカの生態研究に転進した教授は人工鰓肺でのべ1万時間潜水してイルカとの生活を撮りためた映像を2時間50分31秒の数学論文として学会に提出するも、支離滅裂な内容に失笑を買っただった。
 サンディエゴの公立図書館でそのビデオを14回は見た石井光成は、人工知能、自意識のある機械ができてしまうことに気付く。中核となる理論とプログラムがまったくわからない光成は、イルカの行動アルゴリズムを調べるため、人工鰓肺の手術を受け、全国の沿岸を探し回り、最後に込屋群島の真計島にたどり着く。
 そこで口のきけないあのコ(ドル子)に出会う。
 光成はイルカの生態観察のため船を出してくれる漁師を探し、ゲンさんと一緒に海で働きはじめ、イルカの研究を開始するが、イルカと仲のよいドル子に嫌われる。

第2巻
 ドル子はゲンさんを密かに慕っていることに気付いた光成は、ドル子の元同級生の新城かなえの協力でゲンさんに合わせるが、それが島のオバアたちの怒りを買い、光成は真計島を追い出されることとなり、ゲンさんとともに江楽部島の網元の息子、デンカの深海追い込み漁に加わることになる。

第3巻
 一方、デュラム教授の元教え子で恋人でもあったゼルダは、サンディゴの公共図書館で教授のビデオを繰り返し見た光成を拉致するため、カトリック教団の資金を使って大陸の水中生活者と太いパイプを持つヘイカの息子、デンカと裏取引し、光成を拉致しようとするが、デンカが拉致させた香港系組織「439」は光成を別組織に引き渡す。
 光成は深海の人身売買市場で売れ残ったあらゆる国籍の拉致者とともに70気圧の深海底漁に従事することになる。
 光成を奪われたゼルダたちはマニラで黒い枢機卿ゼフィアスに会い、第三の秘蹟を確認したことを伝える。16年前の2035年、デュラム教授は教皇ピウス13世と”アフリカの果て”で会見。その2日後に教皇が崩御し、一週間後にゼルダと教授の車が事故を起こして、教授の左脳が失われたのだった。ゼフィアスは、教授があの会見で[神の存在]に関する最終的な証明を提示したはずと考えていた。
 ドル子は禁じられていたカミゴトを行ってフリムンとなり、光成との精神コンタクトに成功するが、マジムン(魔物)に取り付かれてキジムン(妖怪)になってしまう。

第4巻
 オバンたちは男連中の手を借りて山狩りを行い、ようやくドル子を正気に戻す。
 ゼルダたちは13ヵ月後、ようやく光成を探し当て、拷問と自白剤でビデオの秘密を引き出し、光成は再び地獄のような深海漁に戻される。光成はかつてきた死んだチムニー群で決死の深海潜水を行ったドル子を発見。かつて見捨てられて朽ちた仲間の潜水服の浮力を借りて海上への脱出に成功する。

第5巻
 強い絆で結び付けられた2人だったが、1年後、光成はいよいよ人工知能への取り組みを開始する。3台のクレイ・マークIIIほかの機材を揃えるため、ゲンさんはヘイカから大金を借り、危ない橋を渡って会社を設立し、ドル子は思いを寄せていたゲンさんの内縁の妻となっていた。
 ハッカーでヤク中の手塚が加わり、光成が見つけたゼータ関数の最終解法により完全無欠のネットバンクOZONのヘブンスゲートが開かれ、彼らに大金をもたらし始める。
 ゼルダもまた光成から得たデュラム・ビデオの知識をもとに、バチカンの支援を得てブタを使った人工知能の実験を始める。ビデオは、見た者の脳の機能を飛躍的に増大させるのではなく、複数の脳の間に共鳴現象を引き起こし操作する、ある意味でテレパシーを可能にする。何百何千の脳を連結すればひとつの大容量コンピュータとして活用できるようになる。

第6巻
 光成は自意識、生命、量子のふるまいなどあらゆる非ニュートン的自律システムのモデルの計算出力の真ん中に穴、ブランクが生じることを発見する。これはヴィトゲンシュタインのいう「語りえぬもの」やゲーデルの不完全性定理-人間の論理的思考は本質的に矛盾していて限界がある-ということを示していた。光成はその穴を補完する実験を開始するが・・・。

(登場人物)
石井光成:主人公。京都大学大学院生。テルナリ、セーネン、テルちゃん
あのコ:ヒロイン。光成はドル子と呼ぶ。オバアたちは泥女(どろめ)と呼ぶ。本当の名前は「みこと」、ミクトゥ。母はタマヨリジュリ。
フランシス・デュラム教授:高速を越える方法があることを理論的に示し、2033年、フィールズ賞とノーベル物理学賞をダブル受賞。敬虔なキリスト教徒。
我那覇元清:ゲンさん、43歳。ガハナ有限会社社長。あのコの母親のお気に入りだった。海中に沈んでいたあのコを助けた過去がある。
糸満啓市:デンカ。エラブの網元の息子。のちのイトマン・ホールディングス代表でOZONイーストの後継者
佐久本:寿司屋の主人
新城かなえ:19歳、佐久本の後妻、ドル子の元同級生。息子アツシ。
ゼルダ・ブレイクスリー:37歳。2032年、17歳で飛び級でケンブリッジ大学生となり、デュラム教授に出会う。
クルツ・ゼブコウスキー:ロシア人。KGB高官の孫
ミハイル・キビスティック:ドクターK。デュラム教授の弟子、ゼルダより4歳上。暗号システム「獣の数字」を初恵美氏、ネットバンクOZONを立ち上げ、総資産50兆ドルという世界一の億万長者
手塚
シモン・ゼフィアス:黒い枢機卿。カリブの最貧国ハイチの出身、
法王
オウガン:エラブに嫁ぐ。あのコの叔母にあたる。

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