2016年5月1日日曜日

海底基地SOS 高橋泰邦

朝日ソノラマ 1977年

 作者はホーンブロワー・シリーズの翻訳者で有名。21世紀。赤道を越えた水深200m近くにある海底基地(正式名称は「世界連邦海洋開発機構UES16072」)が舞台。主人公は少年、夏江ジュンと少女、上島ナミの2人。潜水貨物船船長が氷漬けの漂流船を目撃するがすぐに消えてしまって誰からも信じてもらえない。

 その後、海底基地に所属する潜水母船と2隻の潜水巡視船がなんの痕跡も残さず消息を絶つ。さらに、海底基地が放牧している鯨が失踪の後、冷凍状態で発見された。この3つの事件の背景には思いもよらないことが・・・。地球人類の運命がジュンとナミの肩に・・・。

 海底基地はブドウの房のような形。音波のサクで囲われた広大な海域で鯨を放牧している。それを管理するため、2隻の潜水母船(それぞれ乗組員34人)と 25隻の潜水巡視艇(2人乗り)が所属している。周りに養殖プラントや発電プラントほかいろんなプラントが散在している。

 10才で地上から海底基地に移り住んできたジュンは好奇心の旺盛なところと臆病なところの混在した発展途上の少年。ナミは別の海底基地生まれだが、紫外線不足で右膝が曲がらない障害を持つが、それをジュンに見られたくなくて意地を張っている。この2人の関係の伸展も見逃せない。

 本作品はジュヴィナイルものではあるが、潜水艇の視野の制約をちゃんと踏まえているとか、着底すると堆積物が舞い上がって、それが流れ去るまで待つとか、窒素酔いの症状など、これまでの海洋SFでもあまり書かれていないリアルな内容。

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