2015年12月4日金曜日

3000年の密室 柄刀一

発出1998、光文社文庫2004年

SFではなく推理小説ですが、かなり地球科学しています。
積み石で塞がれた洞窟の奥の雪氷上で凍結ミイラ化した縄文人が発見された。
神の裁きというアイヌ語から”サイモン”と名付けられた彼は、背後から石斧を突き立てられ、しかも入口の積み石は内側からしか積めないものだった。
彼の毛髪や衣服の植物繊維から放射性炭素年代測定法で導き出された年代は今から3000年前の縄文後期。水田跡が発掘される縄文晩期よりも以前、木の実採取時代に生存していたと考えられるサイモンが、穂摘み具を所持していたことから、考古学上の大論争が巻き起こった。
サイモンに関する専門家たちによる38ページにわたる非公開討論会のやりとりが圧巻。

服装、爪の間や衣服の奥から採取された花粉、所持していた木の実、穂摘み具、首飾り、黒曜石のナイフに付着していた脂肪酸、ポシェットの編み方、肺結核の感染跡、靴底にめり込んでいた岩石結晶や鹿皮の奥から採取された火山灰土を含む黄褐色森林土、靴の傷み、腸の内容物、脂肪酸分析、HB抗原(B型肝炎ウイルスの抗原型物質)、指紋の型、血液型、頭蓋骨と長骨の指数、上肢骨の骨量、肩関節の骨変性の角度、再生した肩などの筋肉組織、抜歯の状態、潜水従事者に特有の外耳道骨腫、手のタコ、入れ墨の模様と顔料、骨などの硬タンパク物質に含まれる炭素13・窒素15の同位体比・・・・
こうしたデータから、サイモンの生い立ちと旅行歴が解き明かされていく・・・。
もうひとつの密室殺人の謎についても、思わぬ方向から解明される。

(横浜研開架)

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