2016年1月2日土曜日

CB-8越冬隊 谷甲州

1980奇想天外11-1981年1月号、1983ハヤカワ文庫JA

 惑星「ムルック」は離心率0.69という長楕円軌道。自転軸は公転面にほぼ一致するまで傾いている。公転周期は1日28時間で340日。かつて生物の発生条件を備えていた惑星に大異変が起きて現在のようになったと考えられている。夏大陸を含む3つの大陸と2つの亜大陸といくつかの島嶼のほとんどは夏極に集まっている。夏極が太陽に向く間、ムルックは遠日点側にあるため、夏大陸は1年を通じて平均厚1,500mの氷床と海氷原に覆われている。近日点の頃には、冬極側の海は太陽熱で沸き上がる。

 ムルックを周回する極軌道には人工太陽HP(ホットポイント)が置かれている。HPは現在は恒星エネルギーを利用する発電衛星であるとともに、冬季は広範囲照射によって夏大陸の光源となり、夏期は狭範囲照射によって極点基地近くの融氷と露岩地帯の掘削を行う。HPは数次にわたる越冬観測ののちに20基に増やされ、20年かけて大陸氷床を融解させ、緑の沃野を産み出す計画だ。
 汎銀河資源開発公社のCB-8越冬隊は夏極に基地を置いている。故障したスノークルーザーに乗っていたバルバティは地球人でムック極地研究所のギュンターに救われる。ギュンターらは海を利用した低温有機浮遊物の養殖プラントなどで自給自足している。

 標高2,800mにある極点基地はジオイドの急激な季節変化に見舞われ、急激な上昇によって気圧が大幅に減少する。基地内の酸素を確保するため、越冬隊員中20名が2,000km離れた夏大陸外縁に位置する「ブリザード前線基地」への疎開を命じられる。しかし20名を乗せた輸送機は悪天候で墜落し3分の2以上が死亡。しかも極点基地ではジオイド変化がHPの姿勢制御を狂わせて送電が絶たれ、それに対処できる人員を欠いたために与圧システムが停止して全滅又はそれに近い状態に。さらに悪い知らせとして192日後、姿勢制御の狂ったHPの狭範囲照射が極点基地を直撃する。

 HPを正常化させるには極点基地から指令を送る必要があるが、スノークルーザーで標高6,700mにまで上昇した極点基地に到達することは不可能。そこで、ブリザード前線基地から夏大陸を半周(6,000km)した所にあるバインター氷海奥に位置する「バインター前進基地」を経由して極点基地に到達する計画が立てられる。まずブリザード前線基地から200kmの海岸「D・1点」(緯度70度近く、春海洋の最奥部)に燃料を集積。そこから2,000kmの「D・2点」まで2台のスノークルーザーと一台の雪上車で内陸海、65度島嶼群を経て向かう。「D・2点」で雪上車を帰し、そこから2,000km、秋海洋側の「D・3点」までスノークルーザー2台にスノーバイク2台を積み込んで向かう。ここでスノークルーザー1台を放棄し、1,800kmのバインター前進基地に到着。そこから500km離れ、高度差で2,400mもの極点基地に向かうには・・・。

=>bk1

・スノークルーザー:Type 8165。ホバークラフト型。水素燃料、4軸独立等配列ターボエンジン群、燃料満載時ペイロード500キロ、最大航続距離は1,500km。
・雪上車:4条独立キャタピラ装軌、ツインヘッドスターリング6重連シリンダー、200馬力、純水素を燃料とする。車体重量4.2トン。最高速度60km/h。
・スノーバイク:キャタピラドライブ、スキーステリング、縦列2座席、単軸ガスタービンエンジン、排気ターボ過給機付き。加圧水素燃料。

(横浜研開架)

0 件のコメント:

コメントを投稿