2016年1月2日土曜日

蒼き海の伝説 西村寿行

徳間書店のTOKUMA NOVELS 1975年

 西村寿行というとバイオレンス・ポルノとまではいかないが、伝承+暴力+ロマンの入り混じった作品で人気の作家ですが、本作品は極めて珍しく本格的な推理モノ。
(永瀬唯さんによると、もともとは本格ミステリーでデビューされていて、ノンフィクション『世界新動物記』も出版されており、薬品会社のプロパーという職歴をお持ちで、野生動物や博物学、生物学への造詣もきわめて深い方だとのこと。)

 8月17日に小型の台風が四国を縦断。日本海に抜けた8月19日に異常高潮が沖縄から千葉県までの太平洋沿岸全体に発生。満潮時より1.2mも高いこの異常高潮は11日間居座った後に消えるが、その8月30日、高知県足摺岬で若い女性の溺死体が発見されるところから始まる。

 死亡経過日数は約十日前後と推定され、黒潮の上流である九州南方から沖縄までのどこかで入水したと推定されるが、該当するような行方不明者の届出はなく、事件は迷宮に。

 ところが別の医療過誤事件に絡んで、看護婦の日野克子が8月19日に伊東のマリーナから病院長とボートで沖に出たのを最後に失踪。刑事は病院長が伊豆半島沖で克子を殺害したことを立証しようとするが、その克子が黒潮を600キロも遡った足摺岬の溺死体であることが判明・・・。

 スリルあり、人妻とのロマンスあり、医療事故隠蔽など社会問題ありと、さすが売れっ子作家ならではの内容。

 熊野の渡海信仰、漁師たちの「お化け潮」の噂などをヒントに徐々にその謎が解き明かされていきますが、運輸省異常高潮調査委員会なるものとその事務局の海上保安庁水路部海象課長が登場するという点でもなかなかユニークな推理小説です。

(部内留保)

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